winter and winter

冬の時代の考古学

増田未亜「夏の瞳 DOKI・DOKI」

ジャケットの増田さんは、色鮮やかな果物があしらわれたトップスを着て、上目遣いでこちらを見つめている。背景は、華やかな黄一色。そして、タイトルは「夏の瞳 DOKI・DOKI」ーー。タイトルから連想されるように、表題曲は夏に胸を躍らせる少女の歌だ。

リズミカルなシンセサイザーの音で駆け出すイントロが始まると、《あなただけよ あなただけよ 夏の瞳 DOKI・DOKI》というフレーズが歌われる。カリンバを模したような音など、どこか南国めいた雰囲気がある。

増田さん本人も《私が歌ったことなかったような曲で、テンポがあって明るい感じの曲なんです》(1)《テンポがあって、デビュー曲よりもっと軽やかで、もっと夏っぽくてさわやかな曲》(2)と語るように、前作「ハートは水色」のイメージを覆すようなナンバー。アレンジを手がけたのは鷺巣詩郎氏で、幾重に重ねられたコーラスも配置され、楽曲にはゴージャスな雰囲気も漂っている。しかし、「ドキッドキッ、ドキ!」と潔く終わるように、あくまで軽やかに夏の一シーンが歌になっている。

増田さんのビスケットボイスも、いい意味で“そつなく”歌い上げており、楽曲の軽やかさを演出している。《誰より 好きだから》のしゃくりあげるような歌い方も、愛らしい。

www.youtube.com

いっぽうカップリングの「グッバイの季節」は秋を前にした、ほんのり寂しい楽曲となっている。「夏の瞳 DOKI・DOKI」では《駆け出すの 白い帽子 手で押さえて》《こわいほど眩しくて 目を伏せたけれど》と歌っていたが、「グッバイの季節」では楽しい余暇を終えたように、《ぼんやりしてるのが好き 夏中遊んだあとは》と呟くように物語が始まる。さらに《避暑地の写真のあのひとも 今では離れた街ね》と歌う。

もしかしたら「夏の瞳 DOKI・DOKI」ではひと夏の淡い恋を歌っていたのかもしれないと、2曲の連関性を想像させる。そんな両曲の詞を手掛けたのは1stアルバム『PURE』でも全曲の作詞を手掛けていた竜真知子氏だ。

またこの曲でも鷺巣氏がアレンジを担当している。フラメンコギターのソロが寂しさを掻き立てるイントロだが、しかしシンセサイザーの音で曲に導入するため、やはり重すぎない。

そこに増田さんのビスケット・ボイスが乗り、サビでは《Good-bye boy Good-bye girl》と夏の思い出を突き放すように歌い、《もう私 振り向かないわ》と決意する。大サビ前では前向きに《ほら ほら 風が おいでよと 誘っているわ》と歌っているが、「わー」の伸びやかなハイトーンが、しなやかで美しい。少し微笑んでいるようにも聞こえる、この絶妙な“やわらかさ”はビスケット・ボイスの本領発揮と言える。

終盤では《スコールのような雨が欲しい》とやりきれない思いを吐き出す方法を求めつつ、《すこしだけ 大人になるの》と成長を予期している。後者は、諦めを滲ませているような歌い方にも聞こえる。

www.youtube.com

  1. 『TYO』’89.08
  2. 『TYO』’89.09