winter and winter

冬の時代の考古学

山中すみか『な・ん・だ・か楽しい』

(’89年11月1日リリース)

1stアルバム『元気してますか・・・』の1ヵ月後にリリースされたのは『な・ん・だ・か楽しい』。表題曲は、美少女路線とは別の一面を見せるにぎやかな楽曲。それも、アヴァンギャルドな作風だ。

イントロはリズムを打つカウベルと、インダストリアル・ミュージックにも使われそうな乾いた効果音、そしてベースのスラップ音がループする。不思議な浮遊感の中、突然ダッダッダッダンッというリズムが流れをぶった切る。

サビらしいサビはない。山中さんが「LALALA」と口ずさみ、2小節分、目一杯詰め込んだ詞を歌うと、ラテン音楽で使われるような乾いた太鼓の乱れ打ち。さらに間奏ではサックスのソロもある。アレンジを手がけたのは『元気してますか・・・』で「さよならに負けない」を手がけた溝淵新一郎氏で、2曲の作りの違いに驚く。

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詞の内容はというと、今しかできないことをしたり、新たな自分を見つけてたりしていくことが“なんだか楽しい”少女の歌だ。土砂降りのなか濡れながら歩いたり、リュックを背負ってツンとしたり。日曜のスケジュールを考えたり。「恋の電話かけてみたい」「ライブハウスでロック聴いて騒ぎたい」という欲望も歌われる。

これまでとはタイプの異なる曲だが「なんだか楽しい なんだかはしゃいでるの」という歌い出しから『元気してますか・・・』同様、独特の囁き声を聴くことができる。やはり、どこか笑みを湛えているようでもある。それに「な、ん、ど、も!」の愛くるしさったらない。山中さんは「LALALA」のくだりが苦労したらしく、《息継ぎする間がないんですよ。ずっと息つぎしないで歌うんです。なんか肺活量が増えちゃったみたい》と語っている(1)。

カップリングの「元気出して」はノスタルジックなメロディやアレンジが印象的。ドラマチックな展開も相まって「四月白書」に近いものを感じる。ただ同曲よりかは歌声が仕上がっており、音程や発声の不安定さも目立たない。でも、上手すぎない。いい塩梅で“山中節”が別のフェーズに移ったように感じる。

また「女の子みたいな 長いまつ毛…してるのね」というフレーズや「嘘電話かけたの さっき家に…こわかった」といった歌詞中のシチュエーションが魅力を放っている。

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山中さんは今作のジャケット撮影のために4kg痩せたといい、ダイエットについて《間食をなくすことと、1日100回から200回、なわとびをする》《1か月間くらいがんばったかな?》と明かしている(2)。確かにこれまでの作品に比べるとスラリとした顔立ちをしており、垢抜けた、とも感じる。

<参考文献>

  1. オリコンWEEKLY』’89.11.13
  2. 『TYO』’89.12